簡単ではない診療科選び

 例えば「おなかが痛い」とき、皆さんは病院のどの診療科を受診しますか?「消化器内科に行こう!」と考える方が一番多いかもしれませんが、医学の教科書で「腹痛が起こる病気」を調べると50種類くらいの病気が掲載されています。それらの病気を担当する診療科は、消化器内科・循環器内科・産婦人科・泌尿器科・整形外科・精神科などです。 上手に医師にかかるためには、専門化が進んだ現在の医療状況を知り、かつ、自分の症状を正しく把握し伝えるコツを知っておく必要があります。
1. 専門医がゆえ
医師の世界では専門化が進んでいて、臓器別や外科・内科・放射線科といった手技別や治療別に経験を積むことが多くなっています。専門的な知識が深まるほど、専門領域の病気を重視する傾向があり、例えば消化器内科の医師であれば、消化器の病気を最初に探します。自分の専門の病気でないことが分かると、他の病気の可能性を考えず、「異常なし」「様子をみましょう」と、他の診療科に紹介しないケースもあり得ます。
● 実際の病気と診断が異なった例
※ みぞおちが痛い:消化器内科を受診。胃のエックス線検査で異常なしと言われ、帰宅したが、心筋梗塞の発作のはじまりだった
※ 胸が痛い:循環器内科を受診。狭心症の薬を処方されて飲んでいたら、何日か経って胸にブツブツが出てきて、帯状疱疹であることがわかった
2. 何科にかかればいいのか?
行くべき診療科が分からない時、持病やふだんの生活を知っている「かかりつけ医」を受診するのが早道です。また、最近増えている「総合診療科」(下記3)に受診することも1つの手です。ある程度大きな病院には、初診受付のそばに相談窓口が設けられています。相談の担当者は医師・看護師・事務員など様々ですが、間違った診療科で長時間待たされることを避けるためにも受診先に迷った時は相談してみましょう。
3. 総合診療科とは?
総合診療科は、どの診療科を受診すればよいかわからない患者さんの窓口として機能しています。総合診療科は診断のプロとしての横断的な広い知識をもち、また感染症や救急医療など臓器を特定するのが困難な領域への対応を得意とする医師が多く集まっています。発熱・腹痛・咳・痰・頭痛や健康診断で異常を指摘された際など困った時に受診できる科です。一方、外傷(外科/整形外科)や皮膚湿疹(皮膚科)、眼の病気(眼科)などは、直接、該当の診療科を受診するほうが効率的です。
※ 総合診療科のある病院一覧
http://www.jsgm.org/general.html 総合診療医学会ホームページより
4. 受診前に自分の症状を観察する!
適切な診療科を選ぶためには、自分で症状をきちんと把握することが必要です。例えば「腹痛」であれば、痛む部位や痛みの性質(痛みの強さ、痛む時間、どんな行動の前後に起こるのかなど)を自分でよく観察することが大切です。
医師が診断し治療方針を決めるのに必要な情報は、@症状の訴え、A病歴・服薬情報、B身体所見、C検査所見 の4つです(図1)。このうち@とAは患者さんだけが持っている情報であり、特に「症状」はその伝え方を間違えると、誤った診断につながったり、診断がつくまでに思わぬ遠回りをすることになりかねません。
5. 症状の伝え方のコツ
医師が「これだけは聞くべし!」という項目があります。表1に示す「LQQTSFA」です。中でも重要なのは、Tの「いつから」とLの「どこが」、Qの「どの程度」の3つで、この順に重要です。「LQQTSFA」を整理してメモを持参するとよいでしょう。また、病歴とあわせて重要なのは、飲んでいる薬の情報です。患者さんは別の病院に通っていること、すでに何らかの治療を受けていることを隠す傾向にあります。これらの情報は正直に話すほうが、医師も診断や治療を考えやすくなります。処方薬局などで渡されるお薬の説明書またはお薬手帳なども医師に提示しましょう。
6. 各診療科はどんな病気を診るのか?
10年ほど前に全国で臓器別診療科名(消化器内科・呼吸器内科・循環器内科など)が導入されました。最近では、内科と外科を統合した「循環器科」「乳腺腫瘍科」などセンター化の動きや複数の診療科にまたがっていたものを1つの科に統合する動きがあります。しかし、診療科には厚生労働省が定めたルールがあり何の名称をつけてもOKというわけではありません。
@ 混同しやすい診療科
神経内科: 脳血管障害・パーキンソン病など神経が関与する脳神経系疾患が専門。
心療内科: ストレスが原因で起こるからだの病気(過敏性腸症候群・摂食障害など)を診るのが専門。また、中等度までのうつ・不眠などについても治療を行なう。主に内科医 が担当している。
精神科: 精神科医が抑うつや統合失調症などを診る
A 循環器? 内分泌?
「循環器」とは、血液を全身に循環させるシステムを担う血管と血液を送り出すポンプ役の心臓を指します。主な循環器疾患は、高血圧症や心臓病などです。
「内分泌」とは、ホルモン分泌を意味し、内分泌腺には甲状腺、副甲状腺、副腎、腎臓、卵巣などがあり、成長ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、性腺刺激ホルモンなどを分泌しています。主な内分泌疾患は、糖尿病や甲状腺疾患などです。
B 内科と外科
大ざっぱに言うと、内科は薬物療法などの「(皮膚を)切らずに治す」治療法を得意とし、外科はメスを握って病巣を切り取る治療をメインとしています。(内視鏡手術は内科が担当することが多い)

7. なかなか軽快しないときは・・・
「通院して3ヵ月になるのに、症状が一向に改善しない」こんなときは医師を替えてみるのも1つの手です。がんなど重大な疾患の診断や治療方針について、主治医以外の第2の意見を聞く目的で行なうのが「セカンドオピニオン」です。CTやMRIが撮れるような大きな病院では、セカンドオピニオンに抵抗感はありません。正直に話して、これまでの検査データや治療記録、できれば紹介状をもらい、別の病院へ第2の意見をもらいにいきましょう。 また、精密検査などを実施しても体に異常がない場合は、心の専門家(精神科/心療内科)へ相談することも考えましょう。
8. 主治医がいても健診は必要です
「高血圧で医師にかかっているから健診は不要」という考えは誤りです。日本の医療体制や医学教育システムの多くは人を全人的に診るようにはなっていません。最近では、これらを省みて全人的に診るシステムをとっている病院もありますが、各科の専門医になり年数経過すると全人的に見ることを忘れがちです。 例えば、消化器内科医ならば主病の消化器を中心に診ているので、自分で健診などを受けないと他に悪いところがあっても発見できません。逆に、受診した健診結果を主治医に見せることは大切ですが、医師まかせにしないで自分で検査結果値の意味などを理解し、行動できるようにしましょう。





(参考・引用)
・暮しと健康 2009年4月号 保健同人社 特集「こんなとき、何科に行けばいい?」
・総合診療医学会ホームページ http://www.jsgm.org/general.html