最近、抜け毛で悩む若年層が増えているようです。抜け毛に効果があるということで、2006年2月にプロペシアという薬が発売され話題になりました。この薬は、AGAという疾患に約70%の効果が あると言われています。AGAとは、Androgenic Alopeciaの略で、「男性型脱毛症」のことです。AGAは、15-96歳の日本人で、約3割に認められると言われています。アメリカでは、男性の5割、閉経後の女性でも同程度いると言われ、女性でも65歳以上になると、75%に認めるというデータもある ようです。まさに、common diseaseと言える「抜け毛」ですが、1日50-60本程度は、正常範囲内と言われています。ただし、100本以上抜けることが続く場合には、要注意です。最近は、メカニズムが解明されてきて、生活習慣の改善や、薬の内服など色々な対策が取れるようになりました。今回は、「抜け毛」に関して、お話をしていきます。
「髪」の話
髪はもともと皮膚が変化してできたものであり、頭皮から出ている部分を「毛幹」、頭皮の下にある部分を「毛根」といいます。髪が伸びるのは、このうちの「毛根部分」にあたり、その一番下で毛母細胞が増殖を繰り返しているからです。
毛根部分には、「毛球」と呼ばれるたまねぎ状をした丸い部分があり、毛球の中では、毛母細胞が毛乳頭から栄養補給を受けて、細胞分裂を繰り返し、頭皮上に髪を押し出すのです。毛乳頭は、毛細血液より送られてくる栄養分を毛母細胞にただ与えるのではなく、必要な形に変えて補給していると考えられます。それによって、増殖した毛母細胞は、上へ上へと押し上げられながら水分をなくして角化し、髪になっていきます。これが、髪の伸びるメカニズムです。髪の伸びる早さは、遅い人で1日に0.25o、早い人だと0.35o伸び、平均して1ヶ月で1p伸びます。また、髪の寿命(毛周期:ヘアサイクル)は女性が5-6年、男性が2-4年と言われています。更に、「毛幹部分」は毛小皮、毛皮質、毛髄質からなっています。
1. 毛小皮:頭皮から出ている毛幹部分をおおっているのが、いわゆる「キュ
ーティクル」とも呼ばれる毛小皮で、いくつもの細胞が魚のうろこや屋根
の瓦のように、びっしりと重なっています。頭皮から出ている髪は、毛母
細胞と比べ、角化していく過程で多くの水分を失っています。水分が少な
いと、細胞はそりかえり、剥がれ落ちやすくなります。新しい細胞が生ま
れることにより、古い細胞が自然に剥がれていくのであれば問題は無いの
ですが、新しい細胞が届く前にはがれるとトラブルを引き起こします。髪
がパサつき、枝毛や切れ毛が目立つようになるのは、水分不足によってキ
ューティクルがはがれ、内側になる繊維細胞を1つにまとめきれなくなっ
ているからです。
2. 毛皮質:毛小皮の下にあり、細い繊維状の細胞の集まりが毛皮質です。こ
の細胞の中にはメラニン色素が含まれていて、これによって髪の色が決ま
ります。
3. 毛髄質:毛小皮の下にあり、細い繊維状の細胞の集まりが毛皮質です。こ
の細胞の中にはメラニン色素が含まれていて、これによって髪の色が決ま
ります。
抜け毛のメカニズム
抜け毛の原因としては、性ホルモンが強く関係しています。抜け毛の主な原因物質はDHT(ジヒドロテストステロン)といわれる物質で、ホルモンの一種です。男性型脱毛症(AGA)では、脱毛部分の頭皮に多量のDHTが確認されています。DHTは5α-還元酵素によってテストステロン(代表的な男性ホルモン)から作られ、このDHTが毛乳頭細胞に存在する男性ホルモン受容体と結合すると、脱毛シグナルが出され、成長期が終了してしまいます。そのため毛髪が長く太い毛に成長する前に抜けてしまいます。十分に育たない細く短い毛髪が多くなることで、全体として薄毛が目立つようになるのです。
「髪」と生活習慣
1. 食生活:日本人の食生活は、欧米型にシフトしてきました。これにより動物性タ
ンパク質、油や塩分を摂りすぎている人が増えています。また、忙しい日々で
ゆっくりと時間をかけて食事をすることもままならないという方も多いでしょ
う。
髪の99%は、約18種類のアミノ酸が結合して作られた「ケラチン」というタンパク質から出来ています。その中で、最も多いアミノ酸はシスチンといい、これは体内でメチオニンから作られます。メチオニンは体内で合成されない必須アミノ酸の為、食事で補わなければなりません。必須アミノ酸を多く含むものは、豆腐などの大豆製品や玄米、イモ類です。また、髪のためには、ビタミンA・B・C・D・E・F、それにパントテン酸が欠かせま
せん。中でも、ビタミンEは、人の体内には無い物質なので、緑黄色野菜を摂る
事が重要になってきます。緑黄色野菜は比較的摂取しやすいですが、見た目の
割には多く摂る事が難しいので、茹でたり、炒めたりする事でより多くの量を
摂取できます。
2. 運動:有酸素運動は育毛に効果的です。薄毛の原因と言われるDHT(活性型男
性ホルモン)を排出する方法は、排尿と発汗です。発汗によって、ストレス等
で過剰に高まった血中のDHTを排出することが出来ます。有酸素運動を長期に
わたって続けると、血管はより身体の隅々まで酸素と栄養をいきわたらせる為
に、血管の新生を始めます。その結果、今まで血流が行き渡らなかった頭部ま
で行き渡るので、育毛効果が期待できます。この考えを更に進めて、逆立ちの
育毛への効用を説く専門家もいるようです(効果は定かではありません)
3. 睡眠:睡眠不足が続くと脳細胞の疲労を回復することが出来ず、内臓に障害が
出たり、血液の状態が悪くなったりします。血液は、昼間は内臓諸器官に比較
的多く、夜になると皮膚や骨に流れます。そのため、皮膚の細胞は、夜10時か
ら深夜2時ごろに作られると言われています。頭皮や髪もまた、同じことです。
太古の昔から人間は昼間活動して、夜は眠るという生活をしてきました。この
リズムを守ることが、頭皮、髪を守ることにつながります。
4. 禁煙:喫煙は毛根への血行を悪くして、髪の栄養不足を招きますので、是非控
えめにしましょう!
5. ストレス:現代人なら誰しも、大なり小なりストレスを抱えて生きています。
過度なストレスは自律神経に悪影響を与えますが、そこまでひどくなくても睡
眠不足になったり、きちんとした食事がとれなくなったりして、髪のためによくない環境をつくります。ストレスは、スポーツや趣味で上手にコントロールしましょう。
6. 正しいシャンプーの仕方:@軽くブラッシングして髪を整える
A髪をお湯ですすぎ、汚れをざっと落とす
Bシャンプーを手のひらでよく泡立て、指の腹の部分で頭皮をマッサージするように洗う
C頭皮や髪にシャンプーが残らないよう、たっぷりのお湯ですすぐ
Dリンスやトリートメントで毛先をととのえ、しっかりすすぐ
Eタオルでたたくように髪の水分をとり、ドライヤーで乾かす(ドライヤーはあまり熱くせず、風で乾かすように)
最後に
今回は、主に男性型脱毛(AGA)を中心にお話をしましたが、脱毛には、男性型脱毛のほかにも、円形脱毛症など多くの原因があります。もし、抜け毛、薄毛が気になり、「治療してみようかな」と思ったら、まずは、皮膚科を受診して、相談してみてください。そこで、男性型脱毛症(AGA)と診断されれば、治療が開始されます。ただし、この治療は、保険外診療となっていますので、ご留意下さい。「まだ、治療までは」とお考えの方も、この機会に、前述したような生活習慣は見直してみてはいかがでしょうか?
参考資料
今日の治療指針2006
HP:http://www.haircare.gr.jp
http://www.emedicine.com/derm/topic21.htm(英文です)
http://ikumou.sakura.ne.jp
http://aga-news.jp/index.html
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